偽りの仮面 第20話


ブリタニア政庁、そしてブリタニア軍。
そのすべての機能が停止していた。
起動前のKMF、そしてすでに起動していたはずのKMFも全て・・・コーネリア達のグロースターも含め全てのKMFがその機能を停止させ、緊急隔離命令が出された各扉は、人力ではとてもではないが開く事が出来ない状態となっていた。それぞれの施設にいた者たちは、閉じ込められた部屋から出ることも叶わず、イレブン・・・日本人の手で次々占拠されるのを待っているしか無かった。

パンドラの箱。
いや、トロイの木馬を開けたブリタニアは、ゼロが生み出したコンピューターウイルスを軍事施設、警備施設に取り込んでしまったのだ。それは、ゼロがハッキングできる環境を作り、尚且つ侵入されている事が外部に気付かれないもので、ルルーシュはそのウイルスを用い、寝る間を惜しんで下準備を行なっていた。
今頃各国のブリタニア軍基地と政庁も同じように機能停止しているだろう。
そしてほんの少し前に出されたゼロの声明。
ネット配信されたそれは、ブリタニアが無力化した事を告げており、各国のレジスタンスは一斉に決起し、至る所で暴動が起きた。
いくら大国ブリタニアでも、同時に全てのナンバーズが決起し、エリアを開放すれば手も足も出まい。ルルーシュのプログラムはすでにブリタニア本国にも流れており、本来ならブリタニア本国もウイルスを使いすべての機能を停止させたかったが、そこまでの時間はなかった。
この作戦にはまだ少し時間をかける予定だったが、前倒ししたのだ。
理由は簡単だ。
偽ゼロであるスザクがブリタニアの手に落ちたから。

「スザクが絡むと、計画は前倒しになってばかりだな」

ゼロとして立つのは本来であればもう少し後だったが、スザクの裁判で早めた。
あいつは要所要所でやらかしてくれると小さく笑った。

「おい、咲世子がスザクと合流したぞ」

無線を耳にあてて言うC.C.にルルーシュはほくそ笑んだ。

「よくやった咲世子・・・『全軍に次ぐ、偽りのゼロの身を確保した。我々を苦しめ、日本を奪ったブリタニアから日本を、国を取り戻す時が来たのだ!全軍、進軍を開始せよ!!トウキョウ政庁を落とし、この国を日本人の手に取り戻すのだ!』」



暗闇の中、ダールトンは扉をこじ開けようとするが、びくともしなかった。

「ギルフォード、何をしている手を貸さぬか!」

この部屋にいるのはコーネリアとギルフォード、ダールトン、そして捕縛した偽ゼロの4人だけ。
だからギルフォードがコーネリアの傍についている必要はない、早くこの部屋を抜けるため、手を貸かせとい;ツタのだが、ギルフォードからの返事はなかった。

「・・・ギルフォード、どうした?」

コーネリアは眉を寄せ、返事のない自分の騎士に声をかけた。
真っ暗闇の中、自分の右側にいるはずの人物に。
先ほど偽ゼロの様子を見た後戻ってきた、そこにある気配に。
だが、声は返ってこなかった。
代わりに帰ってきたのは、女性の声。

「ギルフォード、というお名前なのですか。そのお方でしたら、この階にありますお手洗いで眠っていただいております」

声が聞こえた瞬間、コーネリアは反射的に地面を蹴り気配との距離を取った。暗闇の中、周りも解らず取った行動は、不覚にも椅子にぶつかり大きな音を立てる結果となった。ぶつかった足がジンジンと痛むが、今はそんな事を気にしている時ではない。

「貴様、誰だ」
「姫様!」

いないはずの5人目。
いないはずの女性の声に驚き、ダールトンはコーネリアに駆け寄ろうとしたが。

「しばらく眠っていてください」

先ほどとは別の場所で声が聞こえた。
ドサリと重い音が鳴り響き、僅かに床が揺れた気がした。
・・・間違いなく、ダールトンが倒れたのだ。
気を失って。

「ギルフォードが、ここに居ないといったな」

もうここには控除を護る騎士はいない。
それなのに予想以上に落ち着いた声が返ってきた。
想像以上に胆が据わっていると感心する。

「はい、そのとおりです」
「では・・・では、先程まで共に居たギルフォードは・・・?」
「わたくしでございます」
「!?」
「申し訳ありませんが、私も偽ゼロ様も正体を明かせない身。そろそろ失礼致します」

突然背後から声が聞こえ、っ振り返る間もなくバチリ、とした痛みが全身に駆け上り、コーネリアは意識を失った。
ユーフェミアも確保し、政庁を占拠したゼロは、政庁の電源を回復させた。
これだけの動きだ、各地で息を殺し時期を待っていたレジスタンスたちもこれを好機と一斉決起し、各ブリタニア基地も、次々壊滅していた。
回復した政庁の通信回線を開き、ゼロは日本を取り戻したことを宣言した。
そのまま一気にブリタニア人を排除する動きに変わるかと思われたが、ここで日本人を止めたのもまたゼロの言葉だった。

『我々黒の騎士団は武器を持たぬ者の味方だ。今この国を力で支配していたブリタニア軍は陥落した。国を、名を、矜持を奪われていた日本人はその全てを!自由を取り戻したのだ!・・・だが、忘れるな日本人よ!我々は人種に関係なく、弱い者の味方だという事を。よく聞け日本人よ!ブリタニア人を虐げてはならない!弱者となった彼らに危害を加えるという事は、シャルル・ジ・ブリタニアのやり方を、弱肉強食を認めるということだ!我々黒の騎士団はそれを許さない。その事を努々忘れるな』

今までの恨みを晴らそうとする者たちがブリタニアの一般市民に手を出せば、ブリタニアと同じ事をする事になる。という言葉に、それだけはごめんだとブリタニア人に対する迫害と暴力は止められた。
何より、それらの行動を黒の騎士団は許さない。
ゼロが許さない。
ゼロを敵に回そうとする者は今この国にはいなかった。
ほんの数時間で、難攻不落と言われたトウキョウ政庁と、軍事基地を落とした男。
敵になど回したくはないと、誰もが思った。


日本は開放され、ブリタニアに攻めこむまで秒読み段階。
各エリアは決起した者たちの手で国を取り戻した。
もちろん各国も今回のゼロの手腕に驚くしか無く、これほどの者を怒らせ、万が一にもブリタニア側に付く事になってしまえば、手に負えなくなると考え、ゼロの指示に従うことととなった。

コマは増えた。
戦力は十分。
いま進めているのは、ブリタニア本国の主力部隊の無効化と、皇室の力を削ぎ落とすための下地作り。やはり本国ともなれば、数が多くてまだまだ終わらない。パソコンをせわしなく操作していると、耳になれた音が近づいてきた。

「はいお兄様、少しお休みください」

ナナリーが運んできたのはティーセットとクッキーだった。
それをルルーシュは蕩けてしまいそうなほど甘ったるい満面の笑みで受け取った。

「ありがとうナナリー」

ゼロはルルーシュだとナナリーが気づいたこと。
ナナリーが咲世子とスザクを引き込んだこと。
スザクの行動は主にナナリーが計画したものだったこと。
それらを知ったルルーシュは、嬉しいような悲しいような、複雑な顔をしていた。
だがすぐに、愛するナナリーには一瞬でばれてしまったのか。
僅かな言葉だけで俺だと気付いたのか。
さすがナナリーだ!
そして俺を陰ながら護るため、最良の策を打ってくれていたなんて。
ああ、なんて出来た妹なんだ。
と、脳内お花畑になり、ナナリーの計算通りに進む状況を見て、C.C.はうんざりしたように二人のやり取りを見ていたものだ。

「もうすこししたら休むよ」
「スザクさん、まだ戻れないんでしょうか・・・」

日本開放の数日後から、スザクは京都にいる。
特派は、いやロイドとセシルは、もうブリタニアには目はないと判断した。貴族という地位もいつまで残るか解らないし、そもそも爵位に未練はない。それなら理想のデバイサーであるスザクの元に残ることにした。資金援助の交渉をするならキョウト六家、しかもスザクの関係者達だと聞き、交渉に行かないとねぇ。と笑うロイドとセシルに連れられ京都へ行くと、カグヤが出迎えた。
カグヤは偽ゼロ=スザクと気づいており、軍に入ることで自分の立場を確保し、尚且つ隠れ蓑とした。そして日本のために身を呈してゼロを守り、日本開放を成し遂げたのだと盛大に勘違いされ、六家の重鎮たちからカグヤと共に日本を背負えと説得され、帰るに帰れないらしい。
資金援助に関しては日本の国防にも関わる事だからと、少し面倒なことになっているようだ。資金を六家から出すか、国から国防費として出すか、という話なのでどちらにせよロイドたちは安泰らしい。

「大丈夫だよ、スザクを返して欲しいとカグヤには打診している」

ゼロとして。

「それなら、間もなく戻ってきますね」

にっこり笑顔でナナリーは言った。
ルルーシュもナナリーも日本に残ることにした。アッシュフォードは二人に従うと、こちらもそのまま学園を維持するという。

「だが、これからが大変だぞ?今まで虐げられてきた者と虐げていた者達だ。本当の和解には時間もかかるだろう」
「なんとでもなるさ」
「そうか?ならいいが」

咲世子が用意した熱々のピザを口にしながらC.C.は言った。
順調すぎるほど順調に、事は進んでいる。
ルルーシュはもうギアスを必要としないだろう。
このままでは自分の願いは叶わない。
さて、どうしたものか。

「C.C.、全て終わったら、俺はギアスを消滅させる研究にとりかかるつもりだが・・・」

その言葉に、C.C.の体はものすごい勢いで反応した。

「・・・お前のコードはどうする?」
「消す!消せるなら消してくれ!!」

今までにない反応。食いつく勢いでC.C.はルルーシュに詰め寄った。

「いらないのかお前、不老不死」
「いらないに決まっている!ルルーシュ、今こそ私の契約条項を話そう!私の願いは死ぬこと、この生命を永遠に終わらせることだ!!」

19話
21話